大阪高等裁判所 昭和50年(う)1485号 判決 1976年3月12日
主文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中六〇日を原判決の刑に算入する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人江頭幸人および被告人作成の各控訴趣意書記載のとおりであるから、これらを引用する。
弁護人の控訴趣意中、事実誤認の主張について。
論旨は、被告人が被害者宅に侵入し、奥の間の洋服たんす内にあった猥せつ写真一一五枚在中の袋を取り出し、これを手に持って一、二歩次の部屋に歩き出したとき警察官が玄関から入って来て逮捕されたものであるが、被告人が右写真を手に取った時には既に家の外でがやがや人声がして警察官も来ており、すでに右写真を屋外に持ち出すことは不可能な事情が惹起されておったもので、そうだとすれば、被告人は右袋をその事実的支配すなわち占有においたとは認められず、従って原判決が被告人の前記所為につき窃盗の既遂を認定し、未遂としなかったことは、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるというのである。
そこで所論にかんがみ検討するのに、窃盗罪は他人の占有を侵して財物を自己の占有に移した時、すなわち自己の事実的支配のもとに置いた時に既遂に達し、さらに自由に処分できる安全な位置に持ち去ったことまでは必要でないと解するのが相当であり、原判決には所論の如き事実誤認がなく、論旨は理由がない。
各控訴趣意中、量刑不当の主張について。
所論にかんがみ検討するのに、本件犯行の動機・方法・態様並びに前科関係ことに本件は昭和四九年に処せられた恐喝罪等による懲役一〇月(法定通算四日)の仮出獄中の犯行であることのほか被告人の年令、性行、その他諸般の情状を総合すると、所論の諸点を十分斟酌しても、被告人に対し懲役一〇月を科した原判決の量刑が不当に重いとは考えられず、論旨は理由がない。
よって、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとし、当審における未決勾留日数の通算につき刑法二一条、当審の訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項但書を適用して、被告人に負担させないこととし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 今中五逸 裁判官 兒島武雄 木村幸男)